懐かしさと新しさを再発見するオーベルジュ

2024.08.09

  • 2023年にオーベルジュとして新しい船出を迎えた「陶々亭」。築100年以上の歴史を持ち、かつては中華料亭として長年親しまれた和風建築をどのように残し、活かし、未来に繋いでいくのか。日誌でご紹介していきます。

  • 長崎唯一の中華料亭としての歴史

    長崎新地中華街からなだらかな坂を登った先にある十人町。住宅が密集する閑静な場所に、美食を求めて多くの常連客が集う料亭がありました。昭和24年頃に創業した「中華料亭 陶々亭」は、中国の食文化を取り入れた「卓袱中華」を長崎で唯一提供した料亭。その上品な味わいだけではなく、明治末期に建てられた和風建築も独特の魅力を醸し出していました。2階の宴会場には見事な縁側があり、時間を忘れて楽しむ人々で賑わったそう。鎖国時代から外国の文化を受け入れてきた長崎ならではの「和華蘭文化」を堪能できる、まさに唯一無二の料亭でした。

  • そんな「中華料亭 陶々亭」ですが、惜しまれつつも2020年に閉店を迎えます。「またあの建物で過ごせたら」と多くの人が願う中、人一倍強い想いを抱いていたのが、現オーナーの円田幹。幼い頃から家族や知人とともに足繁く通った大切な場所をなんとか残したいという一心で、貴重な建物の活用を模索しました。様々な方法を検討する中で行き着いたのが、かつての中華料亭のように美食と空間をゆったり堪能できるオーベルジュというスタイルです。

  • 思い出の詰まった場所を、新しい形で残す

    梁や柱、窓枠、池、階段など、古民家の趣ある部分は大切に残しつつ、より快適に過ごせるよう建物全体のリノベーションを実施しました。主屋2階の宴会場と離れ、そして物置として使われていた蔵を客室用に改装。またヨーロッパのデザイン家具や現代アーティストの作品など、モダンなエッセンスを取り入れることで、趣ある空間を実現しました。生まれ変わった陶々亭が宿としてプレオープンしたのは2023年9月。12月からはイタリアンレストラン「HAJIME」の営業もスタートしました。

  • 新しくなった陶々亭を訪れる方の中には、かつての中華料亭時代を知る方も。記憶を辿りながら建物を眺める姿が印象的で、陶々亭がどれだけ愛されてきたのか改めて感じます。もちろん初めてこの建物を訪れる方も多く、築100年以上の古民家ならではの珍しいしつらえを新鮮に楽しまれています。懐かしさと新しさ、どちらも感じられるのが陶々亭の大きな魅力です。

  • そして陶々亭の客室には、テレビも電話もありません。車の通りも少ない路地にあるため、夜になるとあたりは静寂に包まれます。風情ある古民家の空間を、心ゆくまで満喫できることを最優先。大切な人との会話をゆっくりと楽しんだり、何にも縛られず自分だけの時間を過ごしたり、慌ただしい日常から離れた、贅沢なひと時をお過ごしください。